第十回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート
第十回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート

第十回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート

2024年8月20日に第十回ラッセル『哲学入門』読書会がありました。
39頁の第二段落のはじめの行「私的空間と…」から、41頁の第一段落の最終行「…改めて示す事例である。」まで読みました。

前回は、私的空間と物理空間が対応することをラッセルが結論するような関係をもつところまで見ました。

今回はその対応関係について詳しく見ていくことになります。

私たちが直接知りうる内容

私的空間と物理空間は対応関係にあることだけは受け入れていいことがわかりました。したがって、私たちが直接知りうる内容は対応関係に関する内容のみとなります。

例えば、視覚において直線に見えても物理空間において直線であるとは限りません(大地は実は曲がっている)し、あの星とその星は離れていること(対応関係)を夜に観察することはできますが、その距離が実際にどのようなものなのか直接経験することはできません(人間の視覚に納まるのに何光年も離れているかもしれません)。

このように対応関係は知ることはできるけど、その他のことは直接知ることができないことを、ラッセルは次のように言います。

センスデータとの対応を保証するために必要な関係の諸性質を知ることはできても、それらの関係に立つものの本性は知りえないのである。

ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 40頁.

「本性は知りえない」という言葉には注意しなければなりません。
単に、そのような本性を私的空間において認識することができないだけなのか、様々な探求を通じてもその本性に近づくことができないのか、曖昧な表現になっているように感じます。

この点は『哲学入門』では第5章に関わります。

公共の時間と私的時間

物理空間と私的空間の考察は、公共の時間と私的時間の吟味にも対応します。

公共の時間は、時計の均一に経過する客観的な時間を指すようです。
なお、このような明確な説明がないのと、これまで「物理」空間に関する考察だったのに、ここでは「公共の」時間になっていることから何か裏があるのではないか議論になりました。
私の意見は、物理学の時間は不可逆性が考慮されていないために、あえて公共の時間を使ったか、あるいは特に理由はない、のどちらかではないかというものでした。
書き間違いではないかという意見もいただきました。

話を戻します。私的時間はそのときどに経過の感じは変わります。退屈でしたら長く感じますし、楽しい時ははやく感じます。それに対して、時計の時間はいつでも均一です。

しかし、私的時間も公共の時間も対応関係を見ようとすれば、共通点を見出せます。

例えば、連隊の行進を見ているとき、退屈な人も、楽しんでいる人も、時計時間も経過はばらばらですが、同じ順序で人が並んでいることがわかります。
したがって、私的時間と公共の時間は、順序という対応関係をもつと考えることができるのです。

順序の例外

しかし、両者の時間は対応関係をもつものの、完全に一致しないケースもあると言います(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 41頁)。

ラッセルは雷の例を出します。実際には雷光と雷鳴は同時ですが、知覚においては雷光の後に雷鳴を感じる順序の場合があります。

ちょっとした気になったところ

たいしたことではありませんが、時間順序が実際の時間と私的時間とでは異なる例(雷の例)をあげた段落の中盤で、「同様に…」と議論を続けている箇所が気になりました。

「同様に」なので時間順序が異なる例が出てくるのかと思えば、太陽の光が地球に届くのに8分かかるから、太陽がいま消滅したとしても私たちが気づかないという例をだします。
しかし、「太陽の光→なくなる」という順序は変わらないため、「時間順序が異なる例」にはなっていません。

ただ、その段落の最後に「これはセンスデータと物的対象を区別しなければならないことを改めて示す事例である」(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 41頁)とあるため、さきほどの「同様に」は雷という物的対象と、雷鳴と雷光というセンスデータの区別を抽出した「同様に」と解釈することができるかと思います。

そう解釈してもあまり親切な書き方ではないかと思いますが。このように多少混乱した箇所を読解するのも読書の面白いところです。

おわりに

私的と物理的領域の対応関係の内容がかなり明確になった回だったと思います。

次で第3章を読み終えるか、少し残るかという感じです。

章が比較的短いからはやく終わるというのもわかっておりますが、達成感に浸りつつ(まだはやいですが)レポートを書いておりました。

次回も楽しみです!

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