第一一回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート
第一一回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート

第一一回 ラッセル『哲学入門』読書会 レポート

2024年9月3日に第一一回ラッセル『哲学入門』読書会がありました。
41頁第二段落のはじめの行「空間に関して…」から、44頁の最後まで読みました。

前回は、私的空間と物理空間、そして私的時間と公共の時間の対応関係を見ました。

今回はセンスデータとその物的対象との関係を論じます。また、その議論から次の章の観念論へ話をつなげます。

センスデータと物的対象

ラッセルは、センスデータと物的対象との関係は、空間に関してとほんど同じことが当てはまるといいます。

つまり、私的空間と物理空間は対応関係をもち、対応関係を把握するための関係を知ることはできる(第九回の最後らへん)(AとBは近いという関係は、私的空間と物理空間で対応する)ものの、物理空間の内容そのもの(AとBは実際にどれほど近いのか)を直接知ることはできない(第十回)ということが、センスデータと物的対象にも当てはまるといいます。

青く見える対象と赤く見える対象があるなら、物的対象の間にも、対応する何らかの違いがあると推定するのは理にかなっている。二つの対象が青く見えるなら、それに対応する類似性があると推定してよいだろう。しかし物的対象にあって、それが青や赤に見えるようにしている性質を直接面識したいと思っても、その望みはかなえられない。

ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 43頁.

青く見える対象と、赤く見える対象があるなら、両者(二つの対象)が、そのような異なった傾向を示す何かがあるはずである。青と赤という異なった二つのセンスデータは、何らかの異なった傾向を示す二つの対象と対応関係をもつ。
しかし、だからといって、対象そのものがもつ、私たちに青に見えるようにしている性質を直接見ることはできない、と言います。

ラッセルは物理学の例をあげます。私たちが色を見るとき、光の波を私たちは眼に受けているのですが、その波を私たちはセンスデータとして受け取っているわけではありません。波を眼で受け取ったとしても、センスデータは色なわけです。

このように、センスデータと物的対象についても、対応関係は見出せるものの、センスデータから直接物的対象を知ることはできないということになります。「五感を手段として発見できるかぎりではその内在的性質は知られないまま」(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 42頁)なのです。

とはいえ、それで議論が終わりかと言えば、「残る問題は、物的対象の内在的本性を知る手段が感覚以外にもあるかどうかである」(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 42頁)と述べます。
では、この文章についてさらに何かが書かれているかと言えばそうではなく、初めて本書を読んだ人はなんだかじれったさを感じるのではないかと思います。
しかし、この議論は、第5章の「面識による知識と記述による知識」を示唆しています。
「感覚以外」とは、どうやら記述のことのようです。
また第5章になったらこの問題について考えることになります。

観念論へ

面識による知識をもとに、物質の本性を主張することはできないとこれまで見てきたのですが、哲学にはそのことを主張できるとする学派があるとラッセルは言います。

それは観念論です。彼によれば、「本当ものが何であれ、それはある意味で心的でなければならない」(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 43頁)や、「何が知られるにせよ、私たちが知ることができるものは、ある意味で心的なければならない」(ラッセル『哲学入門』高村訳, 筑摩書房, 2005年, 43頁)という立場が観念論です。

このような学説によれば、物質は実は心的な事柄になのです。

観念論は、「心と本質的に異なるものとしての物質」を否定するものの、「私的感覚から独立に存在するもの」を認め、それが心的なものであるとすることで、私たちが日常、物質だと思っているものが心的なものであると主張するに至ります。

第3章は観念論への言及で終わり、第4章ではこのような観念論について詳しくみていきます。

第5章の「面識による知識と記述による知識」の前に、面識による知識から物質を論じようとした哲学の議論をみていくと言った感じでしょうか。

おわりに

第3章では、あまり納得できない、という意見がいくつかありました。

面識の知識だけを紹介しつつも、実在(物理世界)の知識を前提して議論を進めている点が腑に落ちないのかなとも思いました。

納得できない、腑に落ちないという感覚は非常に重要なので、ある程度あがいたら、大切に保管して次に進むというのがいいかと思っています。

面識以外の事柄による知識は、第5章になれば明らかになるのですが、ひとまず第4章の観念論を次回からみていきます!

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